「今週中に提案資料をお願い」と言われ、試しに生成AIへ「資料を作って」と入れてみた。数秒でそれらしい文章は出てきたものの、読み返すとどこかで見たような一般論ばかりで、そのまま出せる内容ではない。結局ほとんど書き直しになって、「時短どころか二度手間だった」――生成AIを資料作成に使おうとして、こんな経験をした方は少なくないはずです。
結論から言えば、生成AIで資料作成を時短する鍵は、「資料を丸ごと任せる」のをやめて、工程単位で任せる範囲を切り分けることです。AIが得意な工程(構成案の叩き台・要約・箇条書きの文章化など)だけを任せ、目的と結論の決定・事実確認は人が握る。この切り分けができると、仕上がりの質を落とさずに作成時間を大きく削れます。
私はAIタスク管理アプリ「するたす」を開発・運営しています。生成AIを日々プロダクトに組み込んでいる立場から、本記事では「AIに任せられる工程」と「人がやるべき工程」を正直に切り分け、今日から使える実践ステップとプロンプト例まで具体的に解説します。
生成AIの活用を資料作成以外の業務にも広げたい方は「生成AIで仕事を効率化する方法」を、そもそも資料作成そのものに苦手意識がある方は「資料作成が苦手な人の共通点と対処法」を併せてご覧ください。
生成AIで資料作成を時短できるかは「任せ方」で決まる
まず正面からお答えします。生成AIで資料作成が速くなるかどうかは、使っているAIの性能よりも、「何を任せて、何を自分でやるか」の切り分けでほぼ決まります。切り分けができていないと、どんなに高性能なAIでも書き直しの山になります。
「全部書かせる」と薄い資料になる典型パターン
思い出してみてください。「新規事業の提案資料を作って」と一文だけ入れたとき、返ってきたのは、誰に向けた提案でも通用しそうな、当たり障りのない項目の羅列ではなかったでしょうか。「市場の成長性」「競合との差別化」「今後の展望」――間違ってはいないけれど、あなたの会社の事情も、読み手が誰かも反映されていない文章です。
こうした「そのまま使えない出力」を振り返ると、指示の中に「誰に読ませる資料で、何を決めてもらいたいのか」が入っていなかったという共通点がたいてい見つかります。AIは指示に書かれていない前提を知りません。読み手も目的も渡されなければ、最大公約数的な一般論で埋めるしかない。だとすれば、資料が薄くなるのはAIの能力不足というより、目的と結論という「AIが知り得ない情報」を渡さないまま丸投げしていることの結果だと言えます。
時短効果が出るのは「工程単位」で任せたとき
資料作成は、一見ひとつの作業に見えて、実際には「目的を決める→構成を組む→中身を書く→事実を確かめる→相手に合わせて磨く」という複数の工程の束です。丸ごと任せると全工程の品質が均等に下がりますが、工程で切り分ければ、AIの得意分野にだけ仕事を流し込めます。AIで資料作成を時短できている人は、この「工程で切る」発想を持っているケースがほとんどです。
生成AIで資料作成:AIに任せる工程と人がやる工程
ここが本記事の核心です。生成AIをプロダクトに組み込む中で確認してきたAIの得意・不得意を踏まえて、資料作成の工程を「任せてよい側」と「人が握る側」に正直に切り分けます。
AIに任せると速くなる工程
- 構成案の叩き台づくり:目的と結論を渡せば、章立ての候補を数分で複数案出せます。ゼロから構成を考える時間が大幅に縮みます。
- 見出しの言い換え:「もっと簡潔に」「読み手が上層部でも伝わる表現に」など、言い換え候補を量産するのはAIの独壇場です。
- 長い資料や議事録の要約:参考資料を読み込む時間を、要約で下読みしてから必要箇所だけ原文に当たる形に変えられます。
- 箇条書きの文章化:メモ書きの箇条書きを、説明文やスピーカーノートの形に整える作業は高速化できます。
- 抜け漏れ・論理の飛びチェック:「この構成で読み手が疑問に思う点は?」と聞くと、自分では気づきにくい穴を指摘してくれます。
これらに共通するのは、正解が1つに決まっておらず、叩き台さえあれば人が素早く直せるという性質です。たたき台づくりと言い換えは、間違っていても被害がなく、直すのも一瞬。だからAIに任せる価値が大きいのです。
人が握るべき工程
- 目的と結論の決定:「誰に・何を決めてもらう資料か」はAIには決められません。ここを渡さない丸投げが、薄い資料の最大の入口です。
- 事実確認:AIはもっともらしい誤りを平気で書きます。固有名詞・日付・出典は必ず一次情報で確かめる必要があります。
- 相手に合わせた取捨選択:読み手の関心・前提知識・社内の空気を知っているのは人だけです。どの情報を削るかの判断は任せられません。
- 数字の正確性:売上・件数・割合などの数字は、AIの出力をそのまま使ってはいけない代表格です。元データとの突き合わせは人の仕事です。
| 工程 | 担当 | 理由 |
|---|---|---|
| 目的・結論の決定 | 人 | AIが知り得ない情報。ここが資料の背骨になる |
| 構成案の叩き台 | AI | 複数案を数分で出せる。人が選んで直せばよい |
| 中身の文章化 | AI+人の往復 | 箇条書き→文章はAI、内容の判断は人 |
| 事実・数字の確認 | 人 | AIは誤りを断定調で書く。一次情報との突き合わせ必須 |
| 相手に合わせた仕上げ | 人 | 読み手の事情を知っているのは人だけ |
人が握る側に共通するのは、間違えたときのダメージが大きく、AIには正しさを保証できないという性質です。この切り分けを頭に入れておくだけで、AIをどこまで使うかの迷いが大きく減ります。
生成AIで資料作成を時短する5ステップ
切り分けを、今日から回せる手順に落とします。ポイントは、最初と最後を人が握り、真ん中をAIに任せる流れです。
- 目的と結論を人が1行で決める:「部長に予算承認をもらうため、施策Aの費用対効果を示す」のように、読み手+決めてもらうこと+結論を1行に。ここだけは絶対に飛ばさないでください。
- AIに構成案を出させる:1行をそのまま渡し、「構成案を3パターン」と指示。ゼロから考えるより、並んだ候補から選ぶほうが圧倒的に速く進みます。
- 採用する構成を人が決める:出てきた案をそのまま使うのではなく、読み手の関心に合わせて章を削り、順番を入れ替えます。この判断が資料の質を決めます。
- 中身をAIと往復で埋める:各章について、手元の情報を箇条書きで渡して文章化させる→読んで違う部分を指摘して直させる、の往復で埋めていきます。一発で完成を狙わないのがコツです。
- 事実確認は必ず人がやる:数字・固有名詞・日付・出典を一次情報と突き合わせます。ここを飛ばした時短は、信頼を失う近道です。
構成が決まったあとのスライドへの落とし込み方は「見やすいスライドの作り方」で、プレゼン資料全体の設計手順は「プレゼン資料の作り方」で詳しく解説しています。前半の工程をAIで時短できると、こうした仕上げに時間を回せるようになります。
生成AIで資料作成するときのよくある失敗と対策
切り分けと手順が分かっても、実際に回し始めるとつまずきやすいポイントがあります。典型的な3つの失敗と対策を整理します。
失敗1:「資料を作って」と一文で丸投げする
一番多いつまずきです。丸投げした結果に落胆して「AIは使えない」と結論づけてしまうケースを振り返ると、目的と結論を渡していなかったことがほとんどのはずです。対策はシンプルで、ステップ1の「1行」を必ず先に書くこと。1行を書く1分の手間が、書き直しの1時間を消してくれます。
失敗2:AIの出力をそのまま貼り付ける
AIの文章は断定調で自信ありげに見えるため、正しそうに読めてしまいます。しかし数字や固有名詞、統計の出典は、実在しないものが混ざることが珍しくありません。対策は、「事実に関わる記述は全部疑ってかかる」を仕組みにすること。提出前チェックの項目として「数字・名前・日付・出典の突き合わせ」を固定でリスト化しておくと、うっかり通過を防げます。
失敗3:文体と粒度が読み手に合っていない
AIの初期出力は、丁寧だが冗長になりがちです。忙しい上層部向けの資料に説明的な長文が並ぶと、内容が良くても読んでもらえません。対策は、プロンプトの段階で読み手と読まれ方を伝えること。「読み手は多忙な部長。各スライドは3行以内で結論から」のように指定するだけで、直しの量が大きく減ります。それでも最後の取捨選択は人の仕事として残る、と割り切っておくのが健全です。
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そのまま使えるプロンプト例3つ
ChatGPTなどの汎用AIでそのまま使える形のプロンプト例を3つ紹介します。◯◯の部分を自分の状況に置き換えてください。
プロンプト例1:構成案の叩き台を出させる
以下の条件で、資料の構成案を3パターン出してください。 それぞれ、章立てと各章の要点1行を添えてください。 ・目的:◯◯(例:部長に施策Aの予算承認をもらう) ・読み手:◯◯(例:数字を重視する事業部長。技術の詳細には関心が薄い) ・結論:◯◯(例:施策Aは半年で投資回収できるため今期中に着手すべき) ・制約:スライド10枚以内
ポイントは「3パターン」と複数出させることです。1案だけだと良し悪しの判断が難しいですが、並べて比べると「この章立てが読み手に合う」という判断が一気にしやすくなります。
プロンプト例2:箇条書きを読み手に合わせて文章化する
以下の箇条書きを、資料に載せる説明文に整えてください。 ・読み手:◯◯ ・トーン:結論から先に。1文は短く。専門用語は避ける ・分量:150字以内 【箇条書き】 (ここに手元のメモを貼る)
プロンプト例3:抜け漏れと論理の飛びをチェックさせる
以下は◯◯(目的)のための資料の構成と要点です。 読み手(◯◯)の立場で読んだとき、 1. 疑問に思う点・突っ込まれそうな点 2. 説明が飛んでいる箇所 3. 追加したほうがよい情報 をそれぞれ挙げてください。 【構成と要点】 (ここに貼る)
3つ目は「提出前の壁打ち相手」としての使い方です。同僚にレビューを頼む前にAIで一巡しておくと、指摘の大半を事前に潰せます。
浮いた時間は「人にしかできない工程」に再投資する
資料作成の前半をAIに任せられるようになると、時間が浮きます。その時間をただ他の作業に流すのではなく、結論を磨く・読み手の関心を確かめる・数字の裏取りを丁寧にやるという「人にしかできない工程」に再投資するのがおすすめです。作成時間が同じでも、時間の配分が「書く8割」から「考える・確かめる8割」に変わると、資料の説得力は目に見えて変わります。
生成AIで資料作成に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 生成AIで資料作成すると、資料の質は下がりませんか?
丸ごと任せれば下がりますが、工程を切り分ければ下がりません。質を左右する「目的と結論の決定」「事実確認」「相手に合わせた取捨選択」を人が握ったまま、叩き台づくりや文章化だけをAIに任せるなら、質は保ったまま時間だけが縮みます。質が下がったと感じるケースを振り返ると、人が握るべき工程まで任せていたことが多いはずです。
Q2. どんな資料が生成AIに向いていますか?
構成や文章の型がある程度決まっている資料ほど向いています。定例報告・議事録のまとめ・社内説明資料などは効果が出やすい領域です。一方、繊細な交渉資料や、数字の正確性が命の資料は、AIの担当範囲を叩き台づくりに絞り、中身の確認に人の時間を厚く使うのが安全です。
Q3. 会社の機密情報を入力しても大丈夫ですか?
まず勤務先のAI利用ルールを確認してください。ルールが未整備の場合も、顧客名・未公開の数字・個人情報はそのまま入力しない運用が基本です。固有名詞を「A社」「◯◯円」と置き換えて構成や文章化だけ任せる形にすれば、機密を渡さずに時短効果の大部分を得られます。
Q4. プロンプトがうまく書けません。コツはありますか?
凝った書き方を覚えるより、「目的・読み手・結論・制約」の4点を渡すことだけ意識してください。うまくいかなかったプロンプトを見返すと、この4点のどれかが抜けていることが多いはずです。逆にこの4点さえあれば、文章としては拙くても実用的な出力が返ってきます。また、一発で完成を狙わず「出力に注文をつけて直させる往復」を前提にすると、最初のプロンプトの完成度に悩まなくて済みます。
Q5. AIの出力が間違っていることはありますか?
あります。しかも断定調で自信ありげに間違えるため、読んだだけでは気づきにくいのが厄介な点です。数字・固有名詞・日付・出典など事実に関わる記述は、必ず一次情報と突き合わせてください。「事実確認は人の仕事」という前提を崩さない限り、この弱点は運用でカバーできます。
まとめ:生成AIで資料作成を時短する要点
- 生成AIで資料作成を時短できるかは、AIの性能より「工程の切り分け」で決まる
- AIに任せるのは構成案の叩き台・見出しの言い換え・要約・箇条書きの文章化・抜け漏れチェック
- 人が握るのは目的と結論の決定・事実確認・相手に合わせた取捨選択・数字の正確性
- 手順は「目的と結論を1行で決める→構成案を出させる→採用構成を人が決める→往復で中身を埋める→事実確認は人」の5ステップ
- 浮いた時間は、結論を磨く・裏取りを丁寧にやるなど「人にしかできない工程」に再投資する
資料作成の苦手意識そのものをほどきたい方は「資料作成が苦手な人の共通点と対処法」を、構成が決まったあとのスライドの磨き方は「見やすいスライドの作り方」をどうぞ。生成AIの活用範囲を資料以外に広げるなら「生成AIで仕事を効率化する方法」が次の一冊です。
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著者:藤岡 拓也(Takuya Fujioka)
AIタスク管理アプリ「するたす」開発者・運営者
タスク分解の”摩擦”をゼロにすることをテーマに、プロダクトを日々磨いています。